『図書館の魔女 高い塔の童心』感想|マツリカの幼き日の物語に見る言葉の力

今回は高田大介さんの『図書館の魔女 高い塔の童心』の読書感想をご紹介します。

本作はシリーズの前日譚として位置づけられながらも、単体で読んでも「言葉の魔法」が詰まった素晴らしい一冊です。

様々な言葉が交差する独特の世界観と、幼き日のマツリカを中心とした魅力的なキャラクターたちの物語にどっぷりと浸ってみてください。

目次

『図書館の魔女』シリーズと本作の位置づけ

『図書館の魔女』シリーズは、言語や文法を操る「言葉の魔法」を軸にした高田大介さんのファンタジー小説です。

少女・マツリカを中心に、図書館を舞台にした壮大な物語が展開されています。

『高い塔の童心』は、シリーズ本編(第一巻〜第四巻)の前日譚として、マツリカが5〜6歳の頃の出来事が描かれています。

すでにシリーズをご存知の方には、本編で語られなかったマツリカの幼少期や、タイキ、ハルカゼといったキャラクターの新たな一面を発見する喜びがあります。

初めての方には、是非まず本編から読み進めることをおすすめします。

主要キャラクター

マツリカ
『図書館の魔女』シリーズの主人公。本作では5〜6歳の幼い少女として登場します。驚異的な知性と言語能力を持ち、すでに「図書館の魔女」としての素質を十分に備えています。

タイキ
マツリカの祖父であり、「高い塔の魔法使い」として他国からも畏怖されている人物。冷静かつ計算された行動で知られ、本作では「第三次同盟市戦争」を回避するための策略を展開します。

ハルカゼ
マツリカの側近を務める優秀な図書館員。本作では彼の視点から物語が展開され、内面の葛藤や成長が描かれます。マツリカの手話を理解できる数少ない人物の一人です。

幼いマツリカの姿と「童心」の意味

本作の中心には、5歳ぐらいのマツリカがいます。

幼いながらにその知性と洞察力は群を抜いており、「海老饅頭の味が落ちた理由」を徹底的に調査するエピソードは、彼女の鋭い観察力と行動力を象徴しています。

しかし、幼い体に宿る大人びた精神。その対比から、彼女の「童心」がどこにあるのかを考えさせられる切なさも感じました。

幼いマツリカが物事を素直に見つめる眼差しを「童心」ととらえることもできますが、子どものふるまいをしようと子どもが試みるぎこちなさもまた「童心」に思えました。

タイキの策略と「起こらなかった戦争」

物語のもう一つの軸は、マツリカの祖父であるタイキによる「第三次同盟市戦争」回避のための策略です。

「高い塔の魔法使い」と呼ばれるタイキの冷静かつ計算された行動は、まさにその名に恥じない知略を感じさせます。特に印象的だったのは、タイキが語る「怒り」の原動力についてのシーンです。

「欲しいものがあるなら、その欲しいものを手に入れられるように努めればいい。なのに、なぜ別の手段をとるのか?」という趣旨のタイキの言葉には、彼の大事な価値観があるように思えました。

これまで実態のよくわからない、けれどその手腕によって他国からも畏れられている老人として描かれていたタイキですが、その「怒り」がどういうものかについて語られる彼の胸中を知ることで、血の通った一人の人間としての姿が浮かび上がります。

敵国ニザマへの手紙に込められた意図や、彼の言葉の裏に隠された底意には、人々に畏れられる理由がわかるような緊張感も感じました。

ハルカゼの視点

本作の特徴の一つは、マツリカの側近である司書ハルカゼの視点から物語が展開される点です。

これまでの『図書館の魔女』シリーズでは控えめな性格もあって特別フォーカスされていなかったハルカゼですが、本作では彼女の内面が掘り下げられています。

ハルカゼはマツリカの手話が分かる優秀な図書館員として登場しますが、彼女の出身の家から課された役割と、マツリカへの忠誠の間で揺れ動く葛藤が繊細に描かれています。

特に印象的だったのは、自分の立場について悩みながらも、ただマツリカのことを思い、彼女をもっと知りたいという純粋な気持ちから信頼関係を築いていこうと行動に移したところです。

ハルカゼの視点を通じて、マツリカやタイキの人間味がより鮮明に描かれ、読者として彼らに対する共感が深まりました。

言葉の力とシリーズの魅力

『図書館の魔女』シリーズの最大の魅力は、「言葉の力」にあります。

本作でもその特徴が存分に発揮されており、難解な言葉や表現が多いものの、それが物語の世界観をより豊かにしていて、読者を引き込む要素になっています。

作中で言語の文法に関する描写があるのですが、「こういうことかな?」と想像はしても、作者の意図と一致しているのか分からない部分もありました。

言語に対する解説や注釈があれば理解をさらに深められたかもしれないので、作者のあとがきか何かがほしいなと思いました。

しかし、そうした「分からなさ」も含めて、シリーズを通して描かれる「言葉のファンタジー」の魅力を再確認できる作品でした。

多様な言語表現や文法が織りなす豊かな世界観は、読書が趣味の人にとって格別の魅力があるのではないでしょうか。

物語から学ぶこと 本質を見失わない大切さ

本作を通じて強く感じたのは、「本題を忘れないこと」の大切さです。

タイキの「怒り」についての言葉にも表れていますが、何が望みで今何が起きているのか、何をしなければいけないのか、ちゃんと本質を忘れずに望みを成し遂げることが大事だと伝えられているように思いました。

読んでいてハッとしたのは、目の前に起きている現象は「結果」であって、なぜそれが起きているのかの「原因」まで辿らないと物事の本質は見えてこないということ。

タイキやマツリカから、物事の本質を見抜く目の重要性を教えられました。

エピソード0としての魅力

いわゆる前日譚やエピソード0に相当する本作ですが、ハルカゼ目線の新鮮な語りと、タイキの描写により、既存のファンも新たな読者も満足できる内容になっています。

個人的には前日譚というものに対して、本編で登場しない人物や目立たない人物が主役になることが多く、あまり感情移入できないことが多いのですが、本作はマツリカが薫陶を受けた師でもあるタイキや、ハルカゼという優秀なキャラクターを掘り下げることで、本編からの流れが自然に感じられました。

こんな人におすすめ

・ファンタジー好き
・言語に興味のある人
・シリーズ作品を新たに読んでみたい人

『図書館の魔女』シリーズは文法を含めた広い意味での言語を作中で取り扱う、さまざまな言葉が詰まった作品です。

読書好きでファンタジーが好きで、「言語って面白いよね」と思っている方にはぴったりの一冊です。

本作は『図書館の魔女』の数年前の出来事(マツリカが5,6歳の頃)を描いているため、作中の世界観やマツリカ、図書館の立ち位置などを理解するためにも、先に『図書館の魔女 第一巻〜第四巻』を読まれることをおすすめします。

すでにシリーズをお読みの方には、本作によってさらに世界観への理解が深まること間違いなしです。

まとめ

『図書館の魔女 高い塔の童心』は、シリーズの前日譚として描かれた作品でありながら、キャラクターの魅力が存分に詰まった一冊でした。

幼いマツリカの鋭い洞察力、タイキの冷静な策略、ハルカゼの繊細な感情描写など、あらゆる要素が絶妙に絡み合い、読者を魅了します。

言葉の力を信じ、本質を見失わず、自分の信念に従って行動するキャラクターたちの姿は、現実を生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれます。

高田大介さんの紡ぐ言葉の魔法に、これからも魅了され続けることでしょう。

皆さんも是非、『図書館の魔女』の世界に飛び込んでみてください。

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