今村翔吾による『イクサガミ』シリーズの第一巻『天』は、明治時代初期を舞台に繰り広げられる壮大なデスゲームの始まりが描かれています。
Netflixでの映像化も決定し、注目を集めているこの作品の魅力をお伝えします。
あらすじ
明治11年(1878年)、時代の波に取り残された一人の侍がいた。愁二郎はある日、「豊国新聞(ふこくしんぶん)」の噂を耳にする。その新聞には「こどく」というゲームへの招待が記されていた。
この「こどく」とは、勝者に10万円(※)という途方もない賞金が得られるという命懸けの勝負。当時の巡査の年俸48円と比べれば、その破格さは一目瞭然。しかし、この賭けには残虐な条件が付きまとっていた——勝ち残るためには、他の参加者から札を奪わなければならず、場合によっては斬り殺さなければならないという。
愁二郎は、家族を守るため、この危険な賭けに身を投じることを決意する。そこで彼が出会ったのは、時代に見放された”バケモノ”たち。忍者、古流の太刀使い、弓使い、戦闘狂まで——それぞれが己の信念と覚悟を胸に秘め、勝利を目指して争う。
※…当時の10万円
主要登場人物
嵯峨愁二郎(さが しゅうじろう)
本作の主人公。妻子持ちの元武士。若かりし頃に京都で剣術の修行をした。武器は長刀。
香月双葉(かづき ふたば)
愁二郎と同行することになる十二歳の少女。亀岡出身(京都府南部)で、元藩士の娘。武器は短剣。
柘植響陣(つげ きょうじん)
175cmほどの大柄の男。元御家人の元忍び。武器は手裏剣や苦無などの飛び道具。
カムイコチャ
アイヌ民族のある村の若い村長。武器は弓。
菊臣右京(きくおみ うきょう)
下級の公家・菊臣家の当主。花山院家の家僕。武器は大太刀。
貫地谷無骨(かんじや ぶこつ)
元浪人部隊の尖兵。流派は我流。剣術で強い者と戦う「遊び」を求める。
本作の魅力
スリリングな展開と濃密な世界観
『イクサガミ 天』は、中国の古い風習「蠱毒(こどく)」をモチーフにした、命を賭けた戦いを描いています。
物語は、時代の変革期である明治初期、西南戦争直後の日本を舞台に展開されます。巡査の年俸が48円という時代に、その2,000年分以上もの賞金を懸けた謎めいた勝負に、様々な背景を持つ者たちが身を投じていきます。
作品の特筆すべき点は、緻密な戦闘描写です。刀や弓、忍術といった様々な武術が、リアルかつダイナミックに描かれており、読者は臨場感溢れる戦いの様子を鮮明にイメージすることができます。
単純に計算すると、明治19年の1円は令和5年の2万~4万の価値があるそうなので、1円=3万円で換算すると30億円の賞金になります。
ただ、作中では巡査の年俸が例にあげられていたので、より近い感覚になるようイメージすると、現代の巡査の年俸が301万~421万、ざっくり350万として2,000年分かけると70億円となりますね。
時代に取り残された者たちの物語
物語の中心となるのは、時代の波に取り残された人々です。御一新による激動の時代の中で、武芸や伝統的な技を持つ者たちが、それぞれの思いを胸に「こどく」という危険な賭けに参加していきます。
特に印象的なのは、一般人である少女・双葉の存在です。戦いの術を持たない彼女が、なぜこの危険な賭けに身を投じることになったのか。
その背景に興味を掻き立てられると同時に、彼女の運命を案じずにはいられません。
歴史と創作の絶妙な融合
本作は歴史モノでありながら、架空の人物や出来事を中心に据えることで、日本史の予備知識があまりなくても楽しめる作品となっています。
西郷隆盛や大久保利通といった実在の人物への言及はありますが、それらは時代背景を形作る要素として使用されています。
また、青侍(あおざむらい)や鐺(こじり)といった、現代ではあまり馴染みのない言葉が織り込まれており、読者は物語を楽しみながら、江戸から明治への過渡期における文化についても学ぶことができます。
参加者たちの「生き残る」意味
一見すると単なる賞金目当てのデスゲームに見える「こどく」ですが、参加者たち一部には単なる金銭的な動機を超えた事情を抱えている者がいます。
大切な人のため、守るべき文化のため、そして自分自身のアイデンティティを保つため——それぞれの「負けられない理由」が、本作の魅力になっています。
主な登場人物については、背景が作中で語られています。なぜこの人物は「こどく」に参加したのかがわかると、熾烈な戦いとはいえきっと応援したくなると思います。
今後の展開への期待
『天』の巻を読み終えた時点で、「こどく」の全容や、その背後にある組織の真の目的はまだベールに包まれたままです。
これらの謎は、続く『地』の巻でどのように明かされていくのでしょうか?
また、Netflixでの映像化も決定しており、緻密に描かれた戦闘シーンがどのように表現されるのかも、大きな注目点となっています。
おすすめの読者層
本作は、以下のような方々に特におすすめです。
- アクション作品、バトルものが好きな人
- 『LIAR GAME』や『賭ケグルイ』のような、知略系作品のファン
- スリリングな展開や緊迫感のある物語を求める人
結論として、『イクサガミ 天』は、時代モノとデスゲーム小説の要素を巧みに融合させた作品です。
緻密な戦闘描写と重層的なストーリー展開は、読者を物語の世界に引き込み、続きへの期待を膨らませずにはいられません。
まとめ
『イクサガミ 天』は、時代モノとデスゲームの要素を巧みに融合させた作品です。
明治初頭という時代の転換期を舞台に、伝統的な技や価値観を持つ人々の生き様が、フィクションでありながらリアリティを持って描かれています。
すでにNetflix での映像化も決定しており、原作の世界観がどのように表現されるのか、そちらも大きな注目点となっています。
時代に取り残された者たちの闘いの行方を、あなたもぜひ見届けてみてください。